かわいいだけじゃいきていけない!

箒でさっと掃かれて消えてなくならないように

はたちのりんかく

18歳の3月、その少年から確固たる肩書きがひとつ消えた。
高校生でなくなった彼は、社会人ではあったのかもしれない。けれどそれはとても不安定な立場だった。芸能人、アイドル、ジャニーズ事務所に所属するタレント。しかし、特定のグループにも所属せず、デビューも果たしていない彼は、数多い予備軍の中のひとりでしかなかった。
どれだけ仕事をもらおうが、ジャニーズのファンから(または一般の人々から)注目を浴びようが、その事実は変わらなかった。一寸先は闇、そんな言葉がついてまわるような立場…箒でさっと掃かれていなくなってしまう存在であることを覆すことは決して出来なかった。
そのことについて、少年に焦りはあっただろうか。一介のファンにはわからない。ただ、腐っているようにも驕っているようにも見えなかった。欲目かもしれない。与えられた場所に順応し、自分の出来うる限りのことをしているように見えた。いつだってフラットで、そんな少年をますます好きになったし、応援したかった。勝手に喜んで勝手に不安になって、そういうのはナンセンスだとおもった。
そうしてわたしが勝手に腹をくくっている間に少年は19歳になり、この夏、新しい肩書がついた。Mr.KING vs Mr.PRINCE。彼は、期間限定ではあるものの新ユニットの一員になった。
そこからは新しく経験することばかりだった。自分たちのために書き下ろされたオリジナル曲を何曲も歌うこと、特番ではあったけれど冠番組が放送されたこと、バックダンサーとしてでなく主役として音楽番組に出演すること、このユニットのためだけにハワイロケが敢行されたこと…まるでデビューを錯覚するような扱いを受けている。そして、夏の間のみ活動するはずだったグループは期間限定という枷を外して今後も継続されることになった。
もしかしたら消えてなくなってしまうかもしれなかった肩書は、未だ、彼のアイデンティティのひとつになっている。

9月。夏の終わり。少年は誕生日を迎え、はたちになった。少年という呼称はふさわしくなくなり、青年という時期に足を踏み入れた。
はたちを迎えるにあたって、以前、彼はなにかの雑誌で「怖い」と語っていた。きちんとした大人になれるのか…それは決して肩書の話ではなく、もっと概念的な話であったと記憶している。でも、そういう心理になる一因に、今の危うい立場が少しも関係していないのかといったら…本人は否定するかもしれないけれど、それは嘘だと、わたしは思う。ここ1年か2年、いつかはデビューしたいと明言することの多くなった彼は、己の現状に満足できているのか…足元は少しもぐらついていないか…不安はこれっぽっちもないか…もし彼が本当にこの先を望んでいるのだとしたら、まったくない方が不自然だ。揺るぎない肩書は、喉から手が出るほどに欲しかっただろう。

Mr.PRINCE…この肩書が決して揺るがないものではないと分かっている。それでも喜ばしいことには違いないのだ。周囲の期待は膨らむばかりで、でも、本人はずっと冷静だった。実力が伴わない、もっと成長しなければ…よくわかっているな、と、そう思う反面、そういった謙虚さや冷静さを逃げにはしないでほしいなとも思う。地に足はついていた方がいい。だけど、このユニットでデビューをつかむ…掴みたい、そういう熱量をもってくれたら本当はもっと嬉しい。オタクの思惑とかそういうもの関係なく、全てを飲みこんで引きずり込んでいくような勢いに巻き込まれたいとオタクは身勝手に思っている。


はたち。もしかしたらアイドル…ジャニーズJr.としての先はそれほど長くはないのかもしれない。それでも私は祈っている。精悍さを増していく、前を見据えるその横顔を、一分一秒でも長く見ていられますように。彼が夢を掴み取ることができますように。新しい世界へ踏み出した彼の一年が幸せでありますように。

20歳、お誕生日おめでとう。